なぜ私は2万円の日本酒を買って後悔したのか?8年間トンネルで眠り続けたBEYOND TIMEの真実
グラスに注いだ瞬間、目を疑った。
普通の日本酒とは明らかに違う黄金色の液体。これが、私が2万800円を支払って手に入れた「BEYOND TIME」との最初の出会いだった。
正直に告白すると、購入ボタンを押す瞬間まで迷った。日本酒1本に2万円?車の車検代が払えるじゃないか。でも、「1000本限定」「8年熟成」「標高1050mのトンネル」という言葉が頭から離れなかった。
購入の決め手となった3つの異常な事実
まず驚いたのは、この日本酒が普通の酒蔵で造られていないことだ。長野県大町市にある七倉ダム建設時に作られた隧道(トンネル)で、8年間も光と音から完全に遮断された環境で熟成されているという。

年間を通して10℃前後に保たれた環境。これは、一般的な冷蔵庫の温度より少し高い程度。この絶妙な温度管理が、アルコールの角を取り、まろやかな味わいを生み出すらしい。
次に衝撃的だったのは原料米へのこだわりだ。信濃大町産の美山錦を39%まで磨き上げた大吟醸酒。通常、大吟醸といえば50%以下の精米歩合だが、39%となると米の中心部分のみを使用していることになる。
そして最後に、製造元の薄井商店の理念。「知らない土地ではなく、生産者の見える米を使いたい」という信念のもと、契約栽培を実現。仕込み水と同じ水で育てられた米を使用している。
開封して分かった期待と現実のギャップ
到着した商品は想像以上に重厚だった。ギフトボックスに収められ、装飾の紐で結ばれている。この紐をほどく行為自体が「時を動かす」というコンセプトを表現しているという。正直、ちょっと大げさじゃないか?と思った。
しかし、抜栓した瞬間の香りで、その考えは吹き飛んだ。
ほのかに漂うカラメルのような香り。これは新酒では絶対に体験できない。口に含むと、最初のカラメル香がフルーティーな香りに変化する。この変化の瞬間が、まさに「時をこえた」感覚だった。

他の高級日本酒との徹底比較
2万円という価格が妥当なのか検証するため、同価格帯の高級日本酒と比較してみた。
| 項目 | BEYOND TIME | 獺祭 磨きその先へ | 龍力 米のささやき |
|---|---|---|---|
| 価格 | 20,800円 | 33,000円 | 22,000円 |
| 精米歩合 | 39% | 23% | 35% |
| 熟成期間 | 8年 | なし | 3年 |
| 生産本数 | 1,000本限定 | 非公開 | 5,000本 |
| 特徴 | トンネル熟成による独特の風味 | 究極の精米技術 | 兵庫県産山田錦100% |
数字だけ見ると、獺祭の方が精米歩合は高い。しかし、8年という熟成期間は他に類を見ない。この時間の価値をどう評価するかが、購入の分かれ目になるだろう。
実際に飲んで分かった意外な落とし穴
ここまで褒めちぎってきたが、実は困った点もある。
まず、日本酒度が+4とやや辛口なこと。甘口好きの私には、最初の一口が想像以上にドライだった。ただ、不思議なことに飲み進めるうちに、その辛さが料理との相性を高めることに気づいた。
次に、アルコール度数17.7%という高さ。一般的な日本酒より高めなので、普段の感覚で飲むと酔いが回りやすい。高級品だからといって、がぶ飲みは禁物だ。
そして最大の問題は、もう一度買うかどうか迷うこと。美味しいのは間違いない。でも2万円。この葛藤が、開封してから今日まで続いている。
誰におすすめできるのか、正直な結論
結局のところ、BEYOND TIMEは万人向けの日本酒ではない。
おすすめできる人:
- 日本酒の新しい可能性を探求したい人
- 特別な記念日に相応しい一本を探している人
- 熟成酒の深い味わいを理解できる人
- 希少性や物語性に価値を見出せる人
逆に、こんな人には向かない:
- コスパ重視で日本酒を選ぶ人
- フルーティーで飲みやすい日本酒が好きな人
- 日本酒初心者

購入前に知っておくべき重要な情報
もし購入を検討しているなら、以下の点を必ず確認してほしい。
在庫状況について:
1000本限定生産のため、在庫切れの可能性が高い。私が購入した時点で、すでに300本以上が売れていた。
保管方法について:
せっかくトンネルで8年熟成させた日本酒なので、自宅でも適切な保管が必要。直射日光を避け、温度変化の少ない場所で保管することを推奨。
飲み方について:
冷やしすぎると香りが立たない。常温から少し冷やした程度(10-15℃)がベスト。ワイングラスで飲むと、香りの変化をより楽しめる。
最後に伝えたい本音
購入から1ヶ月が経過した今、ボトルはまだ半分残っている。普段なら720mlなんてあっという間に空けてしまう私が、なぜか大切に少しずつ飲んでいる。
それは単に高かったからではない。この日本酒には「時間」という付加価値が詰まっているからだ。8年という歳月をかけて、じっくりと育まれた味わい。それを一気に飲み干すのは、なんだかもったいない気がする。
正直、2万円の価値があるかと聞かれれば、人によるとしか言えない。でも、「特別な体験」として考えれば、決して高くはないと思う。高級レストランでディナーを食べれば、同じくらいの金額はかかる。それが家で、好きな時に、好きなペースで楽しめる。
もし、あなたが日本酒好きで、新しい体験を求めているなら。そして、1000本という希少性に魅力を感じるなら。BEYOND TIMEは、期待を裏切らない一本になるはずだ。
ただし、くれぐれも衝動買いは避けてほしい。この記事を読んで、じっくり考えて。それでも欲しいと思ったら、その時があなたにとっての「BEYOND TIME」なのかもしれない。