枝豆の概念が崩壊した朝3時。農家の1%しか知らない「種」の秘密に震えた話
深夜3時。スマホのアラームが鳴る前に目が覚めた。
「本当に枝豆ごときで人生観が変わるのか?」
半信半疑だった私は、山形県鶴岡市の畑に立っていた。朝露に濡れた枝豆の葉が、月明かりに照らされて銀色に輝いている。
収穫開始まであと30分。
地元の農家さんが言った一言が、今でも耳から離れない。
「この豆を食べたら、もう普通の枝豆は食べられなくなりますよ」
たった1%の農家だけが守る「種」の衝撃
與惣兵衛のだだちゃ豆。
この名前を聞いたことがある人は、どれくらいいるだろうか。
山形県鶴岡市全体で、種を残し続けている農家はわずか1%。江戸時代から一度も途絶えることなく、毎年毎年、大切に種を採り続けてきた。
F1種(一代交配種)が主流の現代農業において、在来種を守り続けることがどれほど困難か。
収量は少ない。手間もかかる。経済的合理性だけを考えれば、とっくに諦めていてもおかしくない。
それでも守り続ける理由を聞いて、私は言葉を失った。
「これは家宝なんです」
午前3時の収穫に隠された、恐るべき理由
なぜ深夜3時なのか。
その答えは、食べた瞬間にわかった。
気温が最も下がる時間帯に収穫することで、豆の中の糖度が最高値に達する。日が昇って気温が上がれば、その糖分は呼吸によって消費されてしまう。
つまり、一日の中で最も美味しい瞬間を狙い撃ちしているのだ。
収穫後、すぐに予冷庫で急速冷却。この一連の流れが、都会では決して味わえない「本物の味」を作り出す。
「手が止まらない」の本当の意味を知った日
茹で上がった瞬間、部屋中に広がる香り。
それは、今まで知っていた枝豆の香りとは全く別物だった。
濃厚で、甘く、どこか懐かしい。まるでトウモロコシのような甘い香りが鼻腔をくすぐる。
一粒口に入れた瞬間―
「これは、枝豆なのか?」
濃厚な甘みが口いっぱいに広がり、噛むたびに旨味が溢れ出す。後味に残る香ばしさが、次の一粒を求めさせる。
気がつけば、500gがあっという間に空になっていた。
なぜ「大きく育てない」のか?農家の逆説的戦略
一般的な農業の常識では、作物は大きく育てるほど良いとされる。
しかし、與惣兵衛は真逆のアプローチを取る。
- あえて実を少なくする
- あえて小さく育てる
- でも根は大きく成長させる
この一見矛盾した栽培方法の狙いは、一粒一粒に栄養を集中させること。
量より質。この哲学が、他では味わえない濃厚な味を生み出している。
収穫適期はたった3〜4日という衝撃
枝豆の収穫時期は通常1週間から10日程度。
しかし、與惣兵衛のだだちゃ豆の場合、最高の状態で収穫できるのは3〜4日だけ。
このタイミングを逃した豆は、容赦なく廃棄される。
「もったいない」と思うかもしれない。でも、この妥協のなさこそが、與惣兵衛の価値を支えている。
他の高級枝豆との容赦ない比較
正直に言おう。私は今まで、様々な高級枝豆を食べ比べてきた。
| 項目 | 與惣兵衛のだだちゃ豆 | 黒崎茶豆(新潟) | 丹波黒枝豆(兵庫) |
|---|---|---|---|
| 収穫時期 | 8月限定(約3週間) | 7月下旬〜9月上旬 | 10月上旬〜下旬 |
| 価格(1kg) | 2,980円〜4,500円 | 2,500円〜3,500円 | 3,000円〜5,000円 |
| 甘み | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
| 香り | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
| 食感 | ホクホク系 | しっとり系 | もっちり系 |
| 栽培方法 | 在来種(種継ぎ) | 在来種 | 在来種 |
| 入手難易度 | 非常に高い | 高い | やや高い |
黒崎茶豆も丹波黒枝豆も、確かに美味しい。
しかし、與惣兵衛のだだちゃ豆の圧倒的な甘みと香りは、他の追随を許さない。
リピーター続出の理由が痛いほどわかる
公式サイトに掲載されている口コミを見て、最初は「さすがに大袈裟では?」と思っていた。
「旨すぎて3回も注文してしまいました」
「本当に手が止まらないです。気を付けて食べます(笑)」
しかし実際に食べてみて、これらの声が決して誇張ではないことがわかった。
むしろ控えめな表現かもしれない。
メディアが注目する本当の理由
「テレビ博士ちゃん」で神農家が作った「神の枝豆」として紹介されたのも納得だ。
中村雅俊さんが「じょんのび日本遺産」で共演した際の、あの驚きの表情。
メディアは話題性だけで動かない。本物だけが持つ説得力が、取材陣を動かしたのだろう。
冷凍技術の進化がもたらした奇跡
8月限定という制約を超えて、通年で楽しめる冷凍だだちゃ豆。
正直、期待していなかった。冷凍で味が落ちるのは当然だと思っていたから。
しかし、袋を開けた瞬間に立ち上る香りで、その考えは覆された。
瞬間冷凍技術により、収穫直後の鮮度と味がそのまま閉じ込められている。
むしろ、中途半端な生の枝豆より美味しいかもしれない。
ギフトとしての破壊力
桐箱入りの特選極上品(8,800円)を見たとき、正直「枝豆にこの値段?」と思った。
しかし、実際に贈答用として使ってみて、その価値がわかった。
受け取った人の反応が、普通のギフトとは明らかに違う。
「枝豆でここまで感動したのは初めて」
「來年も絶対に送ってください」
こんな反応が返ってくるギフトは、そうそうない。
購入前に知っておくべき3つの真実
良いことばかり書いてきたが、デメリットも正直に書こう。
1. 本当に手が止まらなくなる
冗談ではない。1kgが一晩で消えることもある。食べすぎには本当に注意が必要。
2. 他の枝豆が物足りなくなる
スーパーの枝豆が、急に味気なく感じるようになる。これは予想以上に深刻な問題かもしれない。
3. 8月以外は冷凍頼み
生のだだちゃ豆は8月限定。それ以外の時期は冷凍になる。冷凍も美味しいが、やはり生には敵わない。
なぜ今、在来種が見直されているのか
F1種全盛の時代に、なぜ在来種が注目されているのか。
それは、本物の味を求める人が増えているから。
効率性や見た目の均一性を追求した結果、失われてしまった「味の多様性」。
與惣兵衛のだだちゃ豆は、その失われた宝物を今に伝える、生きた文化財とも言える。
200年後も続く、種の物語
江戸時代から続く種。
それは単なる農産物ではなく、時間を超えて受け継がれる物語だ。
今、私たちが口にしているこの味は、200年前の人々も味わっていた味。
そして200年後の人々も、同じ味を楽しむことができるかもしれない。
ただし、それは今を生きる私たちが、この価値を理解し、支えていくことができればの話だ。
最後に伝えたいこと
深夜3時の畑で見た光景が、今も目に焼き付いている。
月明かりの下、黙々と収穫作業を続ける農家の人々。
その手には、江戸時代から続く誇りと責任が宿っている。
與惣兵衛のだだちゃ豆は、確かに他の枝豆より高い。
でも、その価格には理由がある。
1%の農家だけが守り続ける種。
深夜3時からの収穫。
3〜4日しかない収穫適期。
妥協を許さない選別。
これらすべてが積み重なって、あの衝撃的な美味しさが生まれる。
もし、本物の枝豆の味を知りたいなら。
もし、江戸時代から続く食文化に触れたいなら。
一度は食べてみる価値がある。
ただし、覚悟は必要だ。
もう、普通の枝豆には戻れなくなるから。


