保育園のお迎えで、娘が突然「これ、ゴッホの絵みたい!」と空を指さした時、私は言葉を失った。

3歳の子供がゴッホを知っている。しかも、渦巻く雲の形を見てそう言ったのだ。その理由は、3ヶ月前から始めたGOOD ART LIFE(グッドアートライフ)という名画の定期便サービスにあった。

名画との出会いが、想像以上に家族を変えた

最初は「月980円でアートが届く?インスタ映えでもしたいのか」と夫に笑われた。確かに、アートなんて美術館で見るものだと思っていた私が、なぜ定期便を始めたのか。きっかけは、友人宅で見た一枚の絵だった。

「これ、いいでしょ?毎月違う名画が届くの」

リビングに飾られたモネの睡蓮。正直、コンビニで買えるポスターと何が違うのか分からなかった。でも、友人の5歳の息子が「これはモネが池の水面を描いた絵なんだよ」と説明し始めた時、何かが変わった。

GOOD ART LIFE サービスイメージ

実際に使ってみて分かった、良い点と悪い点

予想外に良かったこと

まず驚いたのは、紙質の良さだった。てっきりペラペラのポスターが届くと思っていたら、マット調の厚みのある紙。触ると分かる、明らかに100均とは違う質感。光沢を抑えた仕上がりで、どの角度から見ても反射しない。

そして何より、解説書が素晴らしい。画家の生い立ちや作品の背景が、子供でも理解できる言葉で書かれている。「ゴッホは生きている間、絵が1枚しか売れなかった」という一文を読んで、娘は「かわいそう」と言いながら絵を撫でていた。

月替わりで作品が変わるシステムも秀逸だ。先月のフェルメール「真珠の耳飾りの少女」から、今月はクリムトの「接吻」へ。リビングの雰囲気が毎月変わり、季節の移り変わりのような新鮮さがある。

正直、期待外れだったこと

ただし、全てが完璧というわけではない。

まず、作品を選べないのは人によってはデメリットだろう。「今月は明るい絵がいいな」と思っても、暗い色調の作品が届くこともある。実際、レンブラントの「夜警」が届いた月は、部屋が少し重たい雰囲気になった。

また、A4サイズという大きさも微妙だ。確かに飾りやすいが、存在感はそれほどない。広いリビングだと、正直物足りない。我が家は6畳の寝室に飾ることで落ち着いた。

他のアート定期便サービスとの比較

実は、GOOD ART LIFEを始める前に、他のサービスも検討した。主に比較したのは「Casie(かしえ)」と「ArtScouter(アートスカウター)」だ。

サービス名 月額料金 作品タイプ サイズ 特徴
GOOD ART LIFE 980円 世界の名画プリント A4固定 解説書付き・返却不要
Casie 2,200円〜 現代アート原画 複数サイズ 原画レンタル・交換可能
ArtScouter 3,800円〜 新進アーティスト作品 選択可能 購入オプションあり

価格面では圧倒的にGOOD ART LIFEが安い。Casieは原画をレンタルできる魅力があるが、子供がいる家庭では原画は正直怖い。万が一破損したら...と考えると、プリントの方が気楽だ。

ArtScouterは新進アーティストの作品を楽しめるが、子供への教育という観点では、やはり有名な作品の方が良い。美術の教科書に載っているような作品なら、学校での会話のきっかけにもなる。

GOOD ART LIFE フレーム付き

3ヶ月使って変わった、我が家の日常

最も大きな変化は、家族の会話だった。

「今月の絵、なんか怖い」と言った夫に、娘が「これはムンクの叫びっていうんだよ。おじさんが夕日を見て怖くなっちゃったの」と説明する姿は、微笑ましくもあり、驚きでもあった。

テレビでアート番組が流れると、「あ!これ知ってる!」と娘が反応するようになった。美術館に行きたがるようにもなり、先日は上野の国立西洋美術館まで足を運んだ。本物のモネを前に、「おうちにあるのと色が違う!」と興奮する娘を見て、この定期便を始めて本当に良かったと思った。

意外な副産物

予想外だったのは、来客時の話題になることだ。

「あら、素敵な絵ね」から始まる会話。そこから定期便の話になり、「それいいわね」と興味を持つ人が多い。実際、ママ友の3人がこのサービスを始めた。子供同士で「今月は何が届いた?」と情報交換している様子は、まるでカード集めのようだ。

また、インテリアとしても優秀だ。季節や気分に合わせて、過去の作品と入れ替えることもできる。クリアファイルに入れて保管しているので、場所も取らない。現在、我が家には12枚のコレクションがあり、リビング、寝室、トイレ、玄関と、各所に飾っている。

解約も簡単、でも続ける理由

実は一度、解約を考えたことがある。

娘が作品に興味を示さなくなった時期があったからだ。2ヶ月目のことだった。でも、解約手続きのページまで行って、踏みとどまった。理由は単純で、月980円という価格だ。

スタバのフラペチーノ2杯分。その程度の金額で、子供に文化的な刺激を与えられるなら...と思い直した。結果的に、3ヶ月目に届いたゴッホの「ひまわり」で、娘の興味は復活した。

解約手続き自体は、マイページから簡単にできるようだ。電話不要、引き止めもない。この気軽さも、続けやすい理由の一つかもしれない。

こんな人にはおすすめしない

ただし、万人向けのサービスではない。

まず、本格的なアートコレクターには物足りない。あくまでプリントだし、サイズも小さい。「アートは原画じゃないと」という人には、前述のCasieの方が良いだろう。

また、自分で作品を選びたい人にも向かない。「ピカソは苦手」「印象派だけがいい」といったこだわりがある人は、ストレスを感じるかもしれない。実際、キュビズムの作品が届いた月は、正直飾る場所に困った。

そして、即効性を求める人にも向かない。子供の美術教育といっても、すぐに効果が出るわけではない。我が家も、最初の1ヶ月は娘もほとんど興味を示さなかった。継続することで、徐々に変化が現れるタイプのサービスだ。

結論:月980円の価値はあるのか

3ヶ月使った今、はっきり言える。価値はある

ただし、その価値は人によって違う。我が家の場合、それは娘の「ゴッホって知ってる!」という一言に詰まっていた。美術館に行かなくても、高額な画集を買わなくても、子供が自然にアートに触れられる環境。それが月980円で手に入る。

完璧なサービスではない。選べない不便さ、サイズの物足りなさ、時には好みに合わない作品も届く。でも、その「不完全さ」も含めて、アートとの出会いなのかもしれない。

最後に、このサービスの最大の価値は、アートを特別なものにしないことだと思う。美術館の静寂な空間ではなく、散らかったリビングの壁に。額縁に入った高級品ではなく、子供の落書きの隣に。そんな日常の中にアートがあることで、我が家は少しだけ豊かになった気がする。

来月は何が届くだろう。ルノワールだったら嬉しいな、と密かに期待している自分がいる。すっかり、このワクワク感にハマってしまったようだ。