部下の結婚式でスーツの襟が突然外れた。接着剤で貼り付けただけの芯地が剥がれ、みっともない姿を晒すことになった。量販店で買った「高級」スーツの正体がこれだった。

この屈辱的な経験から、私はオーダースーツの世界に足を踏み入れることになる。しかし、調べれば調べるほど、10万円以上が相場というオーダースーツ業界の現実に絶望した。

偶然見つけた「3万円台」の文字

そんな時、ネットで偶然目にしたのが「オーダースーツ39,800円〜」という広告だった。正直、最初は詐欺だと思った。オーダースーツで3万円台なんて、どう考えても怪しい。

HANABISHIオーダースーツ

調べてみると、HANABISHIという創業70年の老舗だった。半信半疑で銀座店に予約を入れた。

初回来店で受けた衝撃

店内に入って驚いた。高級ホテルのような内装、ズラリと並ぶ生地サンプル。そして何より、スタッフの対応が既製品の店とは全く違った

「お客様の体型の特徴は、左肩が右より1.2cm下がっていて、胸囲に対して腕が長めですね」

採寸だけで20分以上。全身23箇所の計測データを取られた。既製品の店では考えられない丁寧さだった。

生地選びで判明した「安さ」の理由

正直に言うと、3万円台の生地は選択肢が限られている。高級ブランド生地を選ぶと、すぐに5万、6万円になる。しかし、基本ラインの生地でも、触った感触は量販店の「高級スーツ」より明らかに良かった。

スタッフに聞くと、「自社工場で一貫生産しているから、中間マージンがない」とのこと。なるほど、これが安さの秘密か。

他社との比較で見えた真実

せっかくなので、他の有名オーダースーツ店も回ってみた。以下が実際に体験した比較結果だ。

項目 HANABISHI A社(大手チェーン) B社(高級店)
最低価格 39,800円〜 29,800円〜 98,000円〜
採寸箇所 23箇所 15箇所 30箇所以上
納期 約3週間 約2週間 約4週間
生地の種類 300種類以上 200種類程度 500種類以上
仮縫い オプション なし 標準
アフターケア 1年間無料 3ヶ月無料 2年間無料

A社は確かに安いが、採寸の雑さが気になった。「だいたいこんな感じで」という採寸に不安を覚えた。B社は確かに完璧だが、初心者には敷居が高すぎる

3週間後、完成品を受け取って

正直、期待半分、不安半分だった。しかし、袖を通した瞬間、その不安は消えた。

肩のラインがピタリと合う。胸周りは適度なゆとりがありながら、ウエストは絞られている。何より、動いてもどこも突っ張らない。これが本物のフィット感か。

着用して分かった良い点・悪い点

良かった点:

  • 体型の癖を完全にカバーしてくれる
  • 長時間着ていても疲れない
  • シワになりにくい(3万円台の生地でも)
  • 裏地の滑りが良く、着脱が楽

気になった点:

  • ボタンや裏地のデザインは限定的
  • 特殊なデザインは追加料金が必要
  • 店舗が主要都市にしかない

6ヶ月使用後の本音

半年間、週3日のペースで着用している。驚いたのは、型崩れがほとんどないこと。量販店のスーツは3ヶ月でヨレヨレになったが、このスーツは新品同様の形を保っている。

同僚からも「最近スーツ変えた?」「なんか雰囲気変わった」と言われることが増えた。自分でも鏡を見る度に、姿勢が良くなったような気がする。

コスパを冷静に計算してみた

量販店の2万円スーツを年2着買い替える vs HANABISHIの4万円スーツを2年使う。

計算すると、年間コストはほぼ同じ。しかし、着心地と見た目の差は歴然。さらに、オーダースーツは「育てる楽しみ」がある。自分の体に馴染んでいく感覚は、既製品では味わえない。

意外な発見:女性用オーダースーツの実力

実は妻も一緒にオーダーしたのだが、女性用の方が既製品との差が大きいことが判明した。

「今まで、どのスーツも肩は合うけど胸がきつい、胸は合うけどウエストがぶかぶか、という悩みがあった。でもこれは全部解決してる」

妻いわく、女性の体型は男性より個人差が大きいため、オーダーのメリットがより大きいとのこと。確かに、仕上がりを見ると、既製品とは別物だった。

予約システムの賢い使い方

HANABISHIは予約なしでも入店できるが、予約した方が圧倒的にスムーズ。特に土日は混雑するため、事前予約は必須だ。

ちなみに、初回限定の割引クーポンもあるので、最初の1着は思い切って良い生地を選ぶのもアリ。私は基本ラインで作ったが、今思えば、初回割引を使ってワンランク上の生地にすれば良かった。

HANABISHIオーダースーツイメージ

正直な結論

HANABISHIは、「初めてのオーダースーツ」には最適だと思う。価格のハードルが低く、品質も十分。ただし、10万円以上の高級オーダーと比べると、細部の作り込みには差がある。

でも、それでいい。むしろ、3万円台でこのクオリティは異常だ。量販店で中途半端な「高級スーツ」を買うくらいなら、間違いなくHANABISHIでオーダーした方がいい。

あの結婚式での屈辱から1年。今では、スーツを着るのが楽しみになった。朝、クローゼットを開けて、自分だけのスーツに袖を通す。その瞬間の満足感は、既製品では決して得られないものだ。