あの日、私は東京湾の船上で号泣していた。

父の遺骨を海に還す瞬間、想像もしていなかった感情が溢れ出してきたのだ。「お墓じゃなくて、本当に海でよかったのか」という迷いと、父が生前語っていた「俺が死んだら海に撒いてくれ」という言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。

しかし、花びらと共に海面に広がっていく父の遺灰を見た瞬間、すべての迷いが消えた。青く澄んだ海、穏やかな波、そして家族全員で囲んだあの光景は、今でも鮮明に覚えている。

なぜ私たちは海洋散骨を選んだのか

実は、最初は全く違う選択をするつもりだった。母は「やっぱりお墓に入れてあげたい」と言い、私も兄も同じ気持ちだった。でも、父の遺言書に書かれていた一文が私たちの考えを変えた。

「墓石の下で眠るより、大好きだった海で自由に漂いたい。釣りが好きだった俺らしい最期にしてくれ」

正直、海洋散骨なんて聞いたこともなかったし、どこに頼めばいいのか、法的に問題ないのか、費用はどれくらいかかるのか、何もわからなかった。

シーセレモニーとの出会い

インターネットで「海洋散骨 東京」と検索して、最初に目に入ったのがシーセレモニーだった。正直、他にもみんなの海洋散骨ブルーオーシャンセレモニーなど、いくつかの業者があったけど、なぜシーセレモニーを選んだのか。

決め手は、電話での対応だった。他社では「プランはこちらになります」「料金は○○円です」といった事務的な対応が多かったが、シーセレモニーのコンシェルジュは違った。

「お父様はどんな方でしたか?」「ご家族で何名様くらいご乗船されますか?」「思い出の海域はありますか?」

まるで家族の一員のように、私たちの気持ちに寄り添ってくれた。この時点で、ここにお願いしようと心が決まっていた

実際の費用と他社との比較

気になる費用について、正直に書こう。私たちが検討した3社の比較表がこちら:

項目 シーセレモニー みんなの海洋散骨 ブルーオーシャンセレモニー
ファミリー散骨(貸切) 154,000円〜 165,000円〜 180,000円〜
代理散骨 55,000円〜 50,000円〜 60,000円〜
乗船人数制限 定員まで追加料金なし 基本6名まで(追加は有料) 基本8名まで(追加は有料)
自社所有船 ◯(複数隻) △(一部のみ) ×(チャーター)
粉骨サービス 33,000円 30,000円 35,000円

実は、みんなの海洋散骨の方が代理散骨は5,000円安かった。でも、私たちは家族全員(総勢12名)で見送りたかったので、追加料金なしで全員乗船できるシーセレモニーが結果的に一番お得だった。

💡 ポイント
家族が多い場合は、乗船人数の制限と追加料金をしっかり確認すること。一見安く見えても、最終的な総額が高くなることがある。

散骨当日の流れと予想外の出来事

2024年4月14日、快晴。東京・竹芝桟橋に集合した私たち家族は、少し緊張した面持ちだった。

受付を済ませ、クルーザーに乗船。船長とスタッフの方が丁寧に説明してくれた。ここで予想外だったのが、船の豪華さだった。正直、もっと質素な漁船のようなものを想像していたが、実際は白く輝く立派なクルーザーだった。

出港から散骨ポイントまで

出港してから約20分。レインボーブリッジを通過し、羽田空港沖の散骨ポイントへ。この間、船酔いを心配していた母も、穏やかな海と心地よい潮風に笑顔を見せていた。

ただ、一つ困ったことが。4歳の甥っ子がトイレに行きたいと言い出したのだ。船にはちゃんとトイレがあったので問題なかったが、事前に確認しておいてよかったと思った。

いよいよ散骨の瞬間

エンジンが止まり、静寂が訪れた。スタッフの方が「それでは、準備ができましたらお始めください」と優しく声をかけてくれた。

水溶性の袋に入った父の遺骨を、まず母が、そして私たち兄弟が順番に海へ還していく。袋は海水に触れるとゆっくりと溶けていき、白い遺灰が青い海に広がっていった。

そして、色とりどりの花びらを撒き、父が好きだった日本酒を献酒。この瞬間、家族全員が涙していた。悲しみの涙ではなく、なんとも言えない温かい涙だった。

シーセレモニーの良かった点・気になった点

良かった点

  • スタッフの心遣い:押し付けがましくなく、家族のペースに合わせてくれた
  • 船の清潔さ:トイレも含めて、隅々まで掃除が行き届いていた
  • 写真撮影サービス:スタッフの方が積極的に家族写真を撮ってくれた
  • 散骨証明書:緯度経度が記載された立派な証明書が後日届いた
  • 柔軟な対応:当日、急遽参加できなくなった親戚の分の献花も用意してくれた

気になった点

  • 駐車場の案内不足:竹芝桟橋周辺の駐車場情報が少なく、当日少し迷った
  • 天候による延期の連絡:前々日の判断とのことだが、もう少し早めに知りたかった(結果的に延期はなかったが)
  • オプション料金の説明:献花の追加などは当日現金払いだったので、事前に知りたかった

散骨後の心の変化

正直に言うと、散骨前は「本当にこれでいいのか」という不安でいっぱいだった。お墓参りができなくなることへの寂しさ、親戚からの反対意見、そして何より「ちゃんと供養できているのか」という疑問。

でも、散骨を終えた今、その不安は完全に消えている。

母は毎朝、ベランダから海の方角を見て手を合わせている。「お父さん、今日も見守っててね」と。私も出張で飛行機に乗るたび、窓から見える海を眺めては父のことを思い出す。お墓という特定の場所ではなく、海という広大な場所に父がいると思うと、どこにいても父を感じることができるのだ。

海洋散骨を検討している方へのアドバイス

8ヶ月前に海洋散骨を経験した私から、検討中の方へ率直なアドバイスを。

1. 家族でしっかり話し合うこと

これが一番重要。特に年配の親戚は「お墓に入れないなんて可哀想」という考えの方も多い。私たちの場合、父の遺言書があったから説得できたが、そうでない場合は時間をかけて話し合う必要がある。

2. 粉骨のタイミング

意外と時間がかかる。シーセレモニーの場合、散骨日の2週間前までには依頼する必要がある。私たちは1ヶ月前に依頼したが、それでもバタバタした。

3. 季節選び

4月に実施して本当によかった。真夏は暑すぎるし、冬は寒くて年配者にはきつい。春(4-5月)か秋(9-10月)がベストだと思う。

4. 写真や動画の準備

船の上では意外と時間が過ぎるのが早い。事前に「どんな写真を撮りたいか」「誰と撮りたいか」を決めておくといい。私たちは撮り忘れた写真があって少し後悔している。

⚠️ 注意点
献花用の花びらは持参することも可能だが、環境に配慮した花でないとダメ。造花やリボンがついたものはNG。シーセレモニーで用意してもらう方が確実。

他社サービスとの詳細比較

実際に問い合わせをした3社について、もう少し詳しく比較してみよう。

みんなの海洋散骨

良い点:

  • 代理散骨が最安値(50,000円)
  • 全国対応エリアが広い
  • オンライン相談が充実

気になる点:

  • 自社船舶が少なく、繁忙期は予約が取りにくい
  • 追加乗船者の料金が高め(1名あたり11,000円)

ブルーオーシャンセレモニー

良い点:

  • 豊富なオプションプラン(音楽演奏、ドローン撮影など)
  • ペット散骨との同時実施が可能
  • 英語対応可能

気になる点:

  • 基本料金が高め
  • キャンセル料が厳しい(2週間前から50%)

結果的に、「家族みんなで送りたい」「余計なオプションは不要」「適正価格で」という私たちのニーズには、シーセレモニーが最も合っていた。

散骨から8ヶ月経った今の気持ち

あれから8ヶ月。母の日に家族で集まった時、みんなで散骨の日の話をした。「あの日は本当に天気が良くて、お父さんも喜んでいたね」「船酔いしなくてよかった」「また命日には海を見に行こう」

そう、私たちには新しい供養の形ができたのだ。命日や父の誕生日には、海の見えるレストランで食事をすることが恒例になった。墓参りとは違う、でも確かに父を偲ぶ時間

正直、まだ「これが正解だった」とは言い切れない部分もある。でも、父が望んだ形で送り出せたこと、家族全員で最後の時間を共有できたこと、そして今も海を見るたびに父を感じられること。これらを考えると、私たちの選択は間違っていなかったと思える。

最後に伝えたいこと

海洋散骨は、決して「安易な選択」でも「供養の手抜き」でもない。むしろ、しっかりと故人と向き合い、家族で話し合い、新しい供養の形を作っていく、とても前向きな選択だと私は思う。

費用面で見ても、お墓の購入・維持費を考えれば決して高くはない。シーセレモニーの場合、ファミリー散骨でも15万円程度。お墓なら数百万円かかることを考えれば、経済的な負担も少ない

ただし、これはあくまで私たち家族の場合。それぞれの家族に、それぞれの事情がある。大切なのは、故人の意思と遺族の気持ち、両方を大切にすることだと思う。

もしあなたが海洋散骨を検討していて、この体験談が少しでも参考になれば嬉しい。そして、どんな選択をするにせよ、後悔のない送り方ができることを心から願っている。

父が眠る海は、今日も青く、広く、優しく私たちを見守ってくれている。